バイク用エアバッグ「D-air®」 その仕組み、選び方、プロテクション性能を徹底解説

作成日 2020年7月14日
By 鈴木(スズキ)

ここでは、ダイネーゼが開発するワイヤレス式エアバッグシステム「D-air®」について、さまざまな面から解説します。

モーターサイクルの事故において、もっとも命にかかわる損傷の第1位は頭部ですが、第2位はご存じでしょうか。

2位は「胸部」です。
D-air®には、レーシング専用/ストリート専用の2つに分かれますが、特にストリート用D-air®は、胸部に対する衝撃を緩和することを重視してつくられたプロテクターです。

クルマにエアバッグが搭載されていることは当然になりましたが、モーターサイクルのためにつくられたエアバッグも当然になる時代がくるでしょう。

この記事を参考に、ぜひご自身に最適なモデルとフィッティングを見つけてください。

1. ワイヤレス式エアバッグ「D-air®」の歴史

2000-d-air-is-createdD-air®初期のプロトタイプ(2000年)

D-air®のプロトタイプは、今からおよそ20年前に、ミュンヘンで発表されました。

この写真は当時のプロトタイプであり、既に現在でも通用するほどのコンセプトを兼ね備えていることがわかるでしょう。

それから10年後の2011年。

最初にレーシングスーツ向けエアバッグの一般販売が開始されます。このレース用は鎖骨および首の危険なねじれを防ぐことに特化したデザインです。

2011-d-air-racing-meets-the-public

これは現在発売中の最新のレーシングスーツに使われているD-air®の原型となっています。

クラッシュで骨折しやすい鎖骨を中心に、肩の周辺をカバーし、また一瞬で膨らむことで首周りを固定し、危険なねじれを防ぐ目的があります。

ストリート用が転換期を迎えたのは2015年。

スタンドアロン型(ワイヤレス式による完全独立型)のエアバッグジャケット「Misano1000」が登場しました。

2015-d-air-misano-1000

またときを同じくして、スキーの競技のひとつアルペンにおいても、スキー用のアルゴリズムを実装した、スタンドアロン型のエアバッグ「D-air® Ski」がプロフェッショナルに提供されました。

2015-first-real-life-crash-test-for-the-d-air-skiアルペンは時速100km/h以上で雪面を滑走するため、安全性が重視される。写真は実際にD-air® Skiが起動したところ。 

そして2020年。

レーシングスーツ、ジャケット内蔵型に続く、新しいカテゴリ「ベスト型」であるSmart Jacket(スマートジャケット)が誕生します。

スマートジャケットの誕生

スマートジャケットの誕生により、胸部だけでなく、背中への衝撃も、従来のハードプロテクターの何倍もの強度を持ち、今までのジャケット以上に自由な使い方ができるようになりました。

さらに詳しいD-air®の歴史については、以下の記事がおすすめです。

2. エアバッグの仕組みについて

では、ダイネーゼのD-air®はどのような仕組みで機能しているのでしょうか。

基本的にレース用「D-air® Racing」と、ストリート用「D-air® Road」は仕組みが異なりますが、最初は、わかりやすい共通点から見ていきましょう。

(共通) GPSやセンサーを搭載し、ワイヤレスであるということ

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「D-air® Racing」「D-air® Road」共に、ダイネーゼのエアバッグは完全なワイヤレス式であり、ご自身のバイクとの連結は一切必要としません。ケーブルでつなぐこともありません。

内蔵されたシステム部分には、「3つの傾斜センサー」「3つの加速度センサー」「GPS」と計7つのセンサーが含まれており、ライダーの体の動きを毎秒1000回モニタリングしています。

そして、GPSがあることで、もっとも重要な正確な走行速度が解析され、D-air®が事故・転倒時の動きを瞬時に捉えて起動します。

なおGPSが届かないエリアを走行中であっても、途切れる直前の走行データを保持するため、トンネル内などでも安全に機能する仕組みになっています。

ただしトンネル内での死亡事故割合は、全体の2.9%(参照:内閣府HP「道路形状別交通死亡事故発生件数(平成30年)※4輪含める)です。
「通常道路上での安全を、いかに確保するか」が重要であり、それにはGPSによる正確な速度感知が必須となります。

(共通) プロテクターとしての衝撃吸収性能と構造

D-air®そのものはいずれも同じ素材と構造をしており、同じ衝撃吸収能力を有しています。

レース用「D-air® Racing」とストリート用「D-air® Road」、いずれもすべての面が均一に約5cm膨らむことで、安全性にかたよりがありません

クルマ用などでみられる"風船のように"膨らむエアバッグでは、中央と端では厚みが異なるため、部位によって衝撃吸収能力が変わってしまいます。

しかし、モーターサイクル用に最初から開発されたD-air®は、全ての面が均一になることで、どこを打っても同じ安全性が確保される構造になっています。

dainese-エアバッグ-smart-jacket2スマートジャケットに搭載されたD-air®。中央も縁も、すべての箇所が一定の厚みで均一に膨らんでいることがわかる。 

「D-air® Racing」の肩のプロテクション性能は、従来(※)の94%もの衝撃をカットするなど、簡単に言えばその「硬さ」は共通です。
欧州安全規格EN1621-1-2012 を基準

では、異なる点は何でしょうか?

(独自性) エアバッグが起動するトリガー

"どのような動きをしたときに起動するか"というキーが異なります。

D-air® Racingのシステムの中には、サーキット場内での動作、クラッシュの傾向がインプットされています。

例えば、ハイサイドによりバイクから投げ飛ばされるような動きがそれに該当します。

スリップダウン・ローサイドについては、身体が回転しない場合(ただ滑りながら、グラベルに達するなど)は障害物がないサーキットにおいて危険度が低いこともあり、起動することはありません。

また、時速50km/h以下の転倒も同様の理由で起動しない仕組みになっています(※高速からの急減速等例外を除く)

d-air_road_caduta-2d-air_road_caduta-3-1サーキット用であるD-air®Racingは、ハイサイド、および回転を伴うローサイドを対象とする。

D-air® Roadはストリートでの動きやリスクがインプットされており、逆にサーキットの動きは含まれていません。

ハイサイドはもちろん、回転するしないにかかわらずスリップダウン・ローサイドでも対向車など危険な状況が考えられるため、それらすべてにおいて起動します。

d-air_road_caduta-3-2d-air_road_caduta-1障害物が多いストリート向けD-air®Roadは、ハイサイド、ローサイド(回転するしないにかかわらず)のみではなく、衝突にも対応する。

さらに信号待ちなど、アイドリング停車中にもバイクの振動を感知する状態であれば、後ろから衝突された際など、停止時の突然のクラッシュにも対応します。なお立ちゴケのような動きについては、多くの場合反応しないように設計されています。

(独自性) 保護する範囲

D-air® Racing:
鎖骨・肩・首周りを守るために特化したデザインです。胸や背中は、従来のハードプロテクターで保護します。
小容量で済むため、完全に硬くなるまでの時間(インフレーションタイム)が短く済み、一瞬で最高強度になります。

スーツタイプエアバッグの保護範囲

D-air® Road:
ストリートでは障害物や対向車があるため、致命傷の第2位である胸部を中心に保護する目的があります。
そのためより広範囲であることが特徴です。

ジャケットタイプエアバッグの保護範囲

わかりやすく表現すると、たった5cmのD-air® Road エアバッグに、従来の背中用ハードプロテクター x 7枚分の安全性能があります。

さらに詳しい仕組みは、以下の記事がおすすめです。

SMART JACKETについて知る

3. D-air®がワイヤレス式である理由

ダイネーゼは発売当初から、スタンドアロン型(ワイヤレス式)であることにこだわり続けていました。

理由は、事故が起きてから、エアバッグが起動するまでの時間にあります。

ワイヤレスではない場合(ケーブル式の場合)、ケーブルの長さやライディングポジションにより困難を伴い、起動するまでの時間が一定になりにくく、ケーブルの外し忘れによる誤作動という面がありました。

そこでダイネーゼは、ワイヤレス式のエアバッグシステムを採用することで、事故の感知~エアバッグの展開時間を大きく縮めることに成功し、また欧州安全規格「EN1621-4」も取得しています。

"プロテクター"と呼ばれる製品を検討する際には、常に安全認証を取得しているかどうかを調べましょう。一般のハード/ソフトプロテクター含め、ダイネーゼは全てこの安全認証(ENXXXX から始まる規格)を取得しています。

これは第三者機関による、公平なテストをパスしたことを意味します。

なお起動時間について、質問を多くうけるのですが、事故の種類(正面衝突か、側面への衝突か、スリップダウンか等)は様々です。

事故を感知するまでの時間も、"どのように対象物と接触するか"によって変わりますので、時間のみを購入判断の基準とすることはお勧めしません。

4. エアバッグモデルの選び方を知る

バイク用エアバッグを搭載したモデルには、以下の3つの種類がありますので、使用用途にあったものを選びましょう。

  • レーシングスーツ
  • ジャケット
  • ベスト

エアバッグは3タイプある

レーシングスーツを選ぶ際には、ご自身が守りたい場所がカバーされているかを確認しましょう。

主に首、肩、鎖骨が重要です。一部オーダーメイド品の中には、肋骨付近までカバーするものもあります。

なお、ダイネーゼのレーシングスーツの搭載されたD-air® Racingは、MotoGPのプロフェッショナルライダーと同水準です。

ジャケットを選ぶ際には、レザー or ファブリック、でまず判断しましょう。

ロングツーリングが中心であればファブリック(布生地)のものをお勧めしますし、シティ~スポーツツーリングの場合はレザーがお勧めです。

ファブリックモデルはGore-Tex®が採用されているため高い防水性能が魅力ですが、一方レザーの方が滑走転倒時の耐摩擦性能など、強度が最高です。

ベスト(Smart Jacket/スマートジャケット)を選ぶ際には、通気性、折りたたみ収納、インナー/アウターの使い分け、など利便性を考慮すると良いでしょう。

ジャケット内蔵型か、ベスト単体かで迷われるケースも多いのですが、以下のようなメリットとデメリットを把握しておくと役に立ちます。

ベストタイプ:

(メリット)
1つあれば様々なウェアと組み合わせることができる。

(デメリット)
ジャケットを別に用意する必要がある。お持ちのジャケットと合わせる場合は、事前にサイズチェックが必要。

ジャケットタイプ:
(メリット) すでに組み込まれているため、一体感がある。ベスト + レザージャケットを別々に買うより、価格面でお求めになりやすい。

(デメリット) エアバッグのみを外すことは不可能なため、他のウェアで使うことができない。

さらにご使用用途別に詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

5.エアバッグの着用方法について

着用方法は、レーシングスーツ、ジャケット、ベストで異なります。

レーシングスーツ

最も簡単で、お買い求めいただいたあとは、スーツを着るだけ。
首のフラップがスイッチのオン/オフの役割を果たしますので、必ずつけましょう。

フラップのボタンでオンオフD-airとかかれたフラップにボタンがついており、ボタンをつけるとLEDが光り使えるようになる。

レーシングスーツのサイズ選びについては、以下の記事が参考になります。

ジャケットとベスト

すべての製品は、最初にカスタマー登録とアクティベートをする必要があります。お買い求めの製品をパソコンにつなぎ、専用アプリから行います。

D-air® Apps で、Windows/Macそれぞれに対応したアプリをダウンロードし、図のように接続します。

最初のアクティベート作業USBの挿入ポートは商品によって異なるが、初回登録時には名前、メールアドレス、生年月日などを入れる。
登録したメールアドレスには、ファームウェアのアップデート通知などが送られる。

なおこの作業については、ダイネーゼストアでお買い上げの場合には全て担当スタッフが対応いたします。

アクティベート後は、エアバッグ本体にあるマグネット式ボタンをカチッと閉じると着用完了です。

エアバッグを起動させるボタン

また、スマートジャケットについては、ジャケットのエアバッグインナーとしても、アウターとしても、お好みの方法で着用が可能です。

エアバッグベストをアウターとして着用エアバッグベストをインナーとして着用

装着時の動画のまとめや、より詳細な着用方法は以下の記事をご参照ください。

6. ジャケット型D-air®の特徴

現在販売しているジャケットは「第3世代」と呼ばれているモデルであり、レザージャケットが3タイプ(うち1つはレディース)、Gore-Tex®ジャケットが1タイプ発売しています。

いずれのモデルも、背中には従来のハードプロテクターが付いており、その内部に各システムが格納されています。

ジャケット内蔵のエアバッグの全体

これにより、ストリートにおいてもっとも危険な胸部を、最軽量・最高速度で守ることが可能になります。
またエアバッグがジャケットに組み込まれていることにより、シルエットを崩すことなく、一体感をもって着用が可能になります。

また「エアバッグの仕組みについて」の通り、ストリート向けのアルゴリズムを搭載しているため、シティ~ツーリングユースでのみご使用いただけます。

コンセプトについて、こちらの記事にも詳細が掲載されています。

7. レーシングスーツ型D-air®エアバッグの特徴

D-air® Racingは、主なシステムすべてがハンプ(背中のコブ)の中に収納されており、薄く加工されたエアバッグの生地のみが、肩、鎖骨エリアに入っています。

MotoGPをはじめとしたプロフェッショナルライダーたちにとっては、必要以上のプロテクションは動作性を妨げ、また重量増につながります。

そのため、骨折や致命傷を負いやすい必要最低限のエリアのみカバーする目的でデザインされました。

バイク用エアバッグの肩部分写真からもわかるように均一に約5cm広がる。どの部分に衝撃がくわわっても、同じ強度が保たれる。

膨らむ前のエアバッグは非常に薄く、ライダーの集中力には影響しない設計になっています。

MotoGPでは2018年から、全日本ロードレースでも2020年から、エアバッグの装着が義務化され、エアバッグ付きスーツの存在感はさらに増してきています。

安全なサーキット走行を楽しむためには、保護能力の高い、レース専用設計のバイク用エアバッグを選びましょう。

従来のハードプロテクターに比べてどのくらい安全なのか、どのようなときに起動するのかなどについては、以下の記事で解説をしています。

8. ベスト型D-air®「Smart Jacket/スマートジャケット」の特徴

smartjacketのエアバッグエリア

最新のベスト型のエアバッグ「スマートジャケット」は、多くのライダーにとって最良の選択となりえます。主な特徴は次の通りです。

  • メッシュ生地による優れた通気性
  • ジャケットのインナーでも、アウターでも使えるフレキシブルなデザイン
  • 稼働状況がわかりやすいLEDライト + 振動によるお知らせ機能
  • 背中までカバーする広いエアバッグ面積
  • 折りたたみ可能な構造

smartjacket-折りたたみ収納エアバッグ2

スクーターで通勤するライダーから、本格的な長距離ロングツーリングを楽しむライダーまで、自在な使い方が可能です。

さらに詳しい情報は、ベスト型エアバッグについてまとめた以下のページが参考になるでしょう。

9. エアバッグのメンテナンスサイクルと交換について

D-air®のメンテナンスサイクルは?

D-air® の製品は、ご購入日から5年ごとに定期メンテナンスをおこなっています。

エアバッグが開いたら...

ご購入店舗でお預かりさせて頂き、ダイネーゼジャパン アフターセールス部での交換作業が必要となります。ご購入店舗へご相談頂きますと、お名前などが控えられておりますので、特にご購入を証明するものはご不要です。

それ以外の窓口へご相談される際(例えば引っ越して店舗へのアクセスが難しいなど)には、ご購入履歴がわかるレシートはご注文メール控えなどを添えて、お近くのダイネーゼストアまたはダイネーゼジャパン公式サイト「Dainese Japan Offiial Store」へお問い合わせください。

その他、ファームウェアアップデートや日頃のクリーニング、交換時の納期についてなど、詳細はこちらの記事に詳しくまとめられています。

 

以上、様々な面からダイネーゼのエアバッグを解説してきました。

さらに個別の商品の詳細を知りたい方には、ダイネーゼジャパン公式サイトまたはダイネーゼストアの専門スタッフまでお問い合わせください。

ご自身にもっとも合ったエアバッグを着て、安全にライディングを楽しみましょう。

 

関連サイト

SMART JACKETについて知る

Tags: モーターサイクル, D-air®(エアバッグ)

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