バイク用エアバッグの義務化が日本のサーキットでも進んできました。
サーキットは、公道とは全く異なる領域の高速での走行が行われるため、万が一の事故が重大な結果を招く可能性があります。安全性向上のため、新しいステップについて詳しく解説します。
サーキットにおける安全の重要性
特にバイクによるサーキット走行では、ライダーが高速で地面に投げ出されるリスクが高く、適切なプロテクター、装備が必須です。エアバッグの導入は、このリスクを大幅に軽減する手段の一つとして注目されています。
日本のサーキット競技における義務化の流れ
世界ではバイクレースの最高峰、MotoGPにおいて2018年からエアバッグ装着の義務化がスタートしました。そして日本でも2020年よりMFJ(日本モータサイクルスポーツ協会)・バイクメーカーのホンダの主導の元、一部サーキット・年齢に対してエアバッグの義務化が始まりました。そして2024年時点でも段階的に進められています
この義務化の流れは、安全性向上のための国際的な動きと連動しており、海外のレースでの成功事例が国内でも採用される形となっています。
義務化に至るまでの背景
エアバッグの義務化に至る背景には、近年の技術進歩と事故データの分析結果があります。特に、高速での転倒事故においてエアバッグが重大な怪我を防ぐ効果が実証されており、その有効性が認められています。
一例として、世界初となるワイヤレスエアバッグを実用化しサーキットライダーに提供し始めたダイネーゼが開発にあたって重点を置いた「首・肩・鎖骨」の集中的な保護は、エアバッグを導入したライダーとしていないライダーのアクシデント結果を比較した際に実に90%以上の保護力の向上をもたらしました。特に若いライダーにとって、怪我をしやすくその後の選手生命を左右しかねない鎖骨・肩の怪我を大幅に防ぐ点において劇的な効果といえます。
Valentino Rossi
「D-Airなしでサーキットに行くなんて考えられないよ。僕にとっては安全性の大きな飛躍なんだ、特に肩と鎖骨のね。」- 2017年
Max Biaggi
「D-airと同じくらい重要な進歩は他にはありえないと思っています。見えないプロテクションなのに、一旦起動すれば従来のスーツと比べて80%もプロテクション能力が向上しているなんて。まさにDaineseの天才的な発想だね、考案したのは彼らですから。」- 2011年
また、国際的なレース基準に合わせることで、日本国内のレースの競技レベルも向上し、ライダーの安全意識の向上にも寄与しています。
現状のMFJにおける規制
現状、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)では、特定の年齢においてエアバッグ装着が義務付けられています。この規制は段階的に強化されており、世界的な流れに沿って今後は全体的な義務化が進む見通しです。
1. 22歳以下の選手に適用 (現規則 18歳以下の改定)
2. 55歳以上の選手に適用
出典:令和5年11月29日 発信MFJ第23-60号(PDF)
また、MFJはエアバッグの性能基準や検査方法についても厳格なガイドラインを設けており、安全性の確保に努めています。
サーキット別、年齢別導入状況
サーキットによっては、エアバッグの義務化が早い段階で進んでいる場所もあります。特にMFJを始めとしたプロフェッショナルレースが行われるサーキットでは、サーキットガイドラインとしてエアバッグの義務化を進めています。
・鈴鹿サーキット / モビリティリゾートもてぎ / HSR九州→満22歳以下・及び55歳以上の義務化
※2024年12月現在
※鈴鹿サーキットの2025年からの全年齢義務化は見送り
一方で、上記以外のサーキットや公認外のアマチュアレースなどでは「推奨」の段階に留まっている場合もあります。しかし、その安全性の高さから、年齢やカテゴリーに関わらずエアバッグの導入が進むことが期待されています。
海外の実情
MotogGPを筆頭に、スーパーバイク世界選手権や、アメリカ・イギリスなど知名度の高い海外のレースでも日本同様にエアバッグの義務化が進んでいます。
SBK(スーパーバイク世界選手権) | 2022年より全てのレースで義務化 |
MotoAmerica(アメリカ) | 2024年より年間6レース以上及びレギュラーライダーは義務化 |
BSB(イギリス) | スーパーバイククラスは義務化、他推奨 / 2024年 |
CIV(イタリア) | 2024年より義務化 |
上記はバイクレースにおける主要な国・団体ですが、この他の国でも今後エアバッグの義務化が進んでいく事は間違いないでしょう。
エアバッグ導入の利点と課題
メリット
エアバッグ導入の最大の利点は、既存のプロテクターを超えるライダーの安全性向上です。転倒時に瞬時に膨らむことで、衝撃を吸収し、重大な怪我を防ぎます。
しかし実際にはどれ位の安全性の向上が見込めるか、エアバッグをこれから検討するユーザーが最も気になる事はこの点でしょう。
ここでは欧州安全規格(CE)によるバイク用プロテクター(EN1621)の衝撃吸収力を、ダイネーゼが注目した肩/肘部分の基準とエアバッグ基準で比較をしてみます。
試験内容:約2.5㎏のストライカ(重り)を2mの高さから落下させ、試験プロテクターを通して
伝わった力(kN<キロニュートン>)を測定し、結果数値に応じてLv1、Lv2に分けられる。
※測定数字が小さいほどより衝撃吸収力が高くなります
・EN1621-1基準(一般的な肩肘プロテクター)
レベル1 ... 35kN以下(平均値)
レベル2 ... 20kN以下(平均値)
これに対してエアバッグ基準であるEN1621-4基準では
レベル1 ... 4.5KN以下(最大値)
レベル2 ... 2.5KN以下(最大値)
更にダイネーゼのD-Airエアバッグでは最大値2KN以下まで低減し、実に94%もの保護性能の向上が試験的な数値で実証されています。
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記事作成 : 福岡店スタッフ
また参考としてダイネーゼがロードモデルとしてリリースしているエアバッグベスト"SMART JACKET"では既存のダイネーゼ製ハードプロテクターに対し、胸部で8枚分・背中で7枚分もの強度を発揮しています。
上記の通りエアバッグによる安全性の高さは一目瞭然であり、現状考え得る最高のプロテクションと言えますが一方で課題もあります。
導入コスト
エアバッグは急速に普及していますが現在世界的な主流であるダイネーゼのD-Airを始めとしたワイヤレスタイプは、エアバッグ本体・バッテリー・管制ECUが組み込まれた【高度な電子機器】として一定のコストがかかります。
ワイヤレスタイプは【①レザースーツ一体型】【②エアバッグシステムと対応する専用レザースーツの分離型】【③エアバッグシステムと既存のレザースーツに組み込めるよう改造する型】に分かれます。
この中でユーザーにとって最も導入コストが低いのは③と思えますが、エアバッグが「膨らんだ」際の点や「着心地」を考慮したスーツ本体の設計も重要なため、ライディング時の一体感・操作性を考慮すると、やや高額にはなりますが①のタイプがお勧めです。
またワイヤレスではなく車体と有線ケーブルで接続する簡易型もあり、このタイプは既存のレザースーツの上に「羽織る」だけで使用可能な点と複雑な電子機器は搭載していないため初期コストは安いといえます。
しかしMotoGPを始めとした世界の潮流はワイヤレスタイプに舵を切っており、信頼性の向上・安全性からワイヤレスタイプの初期コスト<導入のメリットといえるでしょう。
管理の重要性とランニングコスト
エアバッグシステムは適切な管理の必要性と継続的なランニングコストが発生します。ワイヤレスタイプはバッテリーで駆動するため使用前後にバッテリー残量チェック・システムの有効性確認を行い、バッテリーの劣化を防ぐために定期的な充電が必要なため「使いっぱなし」の管理は不適切です。
またモデルによってはECUのファームウェアアップデートや定期的なシステムメンテナンスも欠かせません。しかしこの点は普段お使いのスマートフォンやPCをイメージしてもらうと良いでしょう。
次にランニングコストです。エアバッグが作動した場合、ワイヤレスタイプ・有線タイプともに作動に必要なガスジェネレータ―の交換・エアバッグ本体の交換が発生します。メーカーによって交換に必要な作動回数・金額は異なりますが確かな安全性を担保するために少なくないコストが掛かる事は事実でしょう。
しかしコスト面は普及が進み、更に開発が進むことで相対的に下がっていく事が期待されます。
モデルの選定とサイス選び
現在市場に出回っているエアバッグ製品は一口にエアバッグと言っても多様なタイプが確認できます。
システム面では「ワイヤレスタイプ」と「有線タイプ」、走行シチュエーションでは「サーキット向け」と「公道向け」、更にエアバッグの保護エリアが「胸部・背中」「首(頸椎)」「肩・首・鎖骨」「上半身全体」「太ももや臀部まで含めた広範囲」とメーカーによって異なっています。
これらの豊富なバリエーションからユーザー自身が「何を優先すべきか」を選択する必要があり、しかしそれは簡単ではありません。この点についてはご自身で悩まず、ぜひプロフェッショナルの知見を頼って下さい。ダイネーゼストアではエアバッグ事情に精通したプロスタッフがユーザー1人1人のライディングスタイル・予算・趣向を詳しく伺い適切なご案内を致します。
併せてサイズ感についてもぜひストアで実際にエアバッグモデルを試着する事が重要です。エアバッグの本質は高い安全性の提供であり、そのためには適切なサイズ・フィッティングが非常に重要です。どのようなフィッティング感が最適なのか、お乗りの車種や他装備品と合わせて総合的に考える必要があります。
まずはレンタルスーツでお試しを
エアバッグモデルを導入するにあたっての課題を挙げましたがここまで読まれて悩ましい点が多く決められない、またはやはりコスト面が気になり導入を迷われる方もいるかもしれません。
そんな時はぜひエアバッグスーツのレンタルサービスを活用して下さい。ダイネーゼではエアバッグモデルのレンタルサービスを行っており手軽に最高のセーフティを体感して頂く事が可能です。まずは手軽に、そして本格的に検討するプロセスを踏むことも重要です。
今後の展望とエアバッグの未来
バイク用エアバッグは今後さらなる進化が期待されています。全体的な軽量化やフィット感の向上、センサー技術の進化によって、より迅速かつ正確に作動するエアバッグの開発が進んでいます。またダイネーゼの最新型エアバッグシステムでは、3回の作動まではエアバッグ本体の交換は不要によるランニングコストの低下やスマートフォンアプリによるコントロールなどユーザービリティの向上が図られています。
もちろんサーキットだけでなく一般道路でもエアバッグの普及が進んでおり、日常的なライディングの安全性向上にも寄与しています。ダイネーゼでは警視庁や宮城県警への白バイ隊員へのベスト型エアバッグモデルの採用など官民問わず普及が広まっており、今後のライディングシーンにおいてエアバッグはより多くのライダーにとって手軽で最も効果的なセーフティとなるでしょう。